
以前、麻雀でAIと対戦した記事を書いた者です。
実はわたし、パチンコ・パチスロにも目がなくて、競輪・競艇、お馬さんも少々嗜んでおります(笑)。そんな打ち手として、そしてデータを扱う立場としても気になる判決が出ました。ホールの台データをbotで集めて記事にしていたサイトをめぐる、スクレイピングの裁判です。いろいろ考えさせられたので、整理してみます。
どんな事件か
ざっくり言うと、「無料で誰でも見られるパチンコの台データを、botで集めて記事にしても『限定提供データの不正取得』にはならないよ」という判決です。大阪地裁が2026年1月22日に出しました(令和7年(ワ)第7894号、判決PDF)。
登場人物は3者。ざっと紹介しますね。
- 原告(株式会社プロテラス):パチンコホール向けに集客サイト作成サービス「テラスモバイル2」を提供。ホールのサイト上で台ごとの出玉データ(台データ)を表やグラフで見せる機能がある。
- 補助参加人(個人A):台データを扱うウェブサイトの運営者。botで台データを取得し、他店舗との比較などの記事を書いていた。
- 被告(エックスサーバー株式会社):Aのサイトが載っているレンタルサーバー会社。
原告は「Aは限定提供データを不正に取得・開示した」として、エックスサーバーにAの発信者情報(氏名・住所など)の開示を求めました。まず発信者情報開示命令の申立てをしたものの、2025年6月30日に全部却下。それに納得できず起こした異議の訴えが今回の判決ですが、結論はやっぱり原告の負け(却下決定の認可)でした。
台データはどう見せられていたか
実は台データを見るのに必要なのは、利用規約への同意とbot判定ツールの通過だけ。ログインもお金もいりません。

判決の前提事実をもとに作図
ホールのサイト(TMサーバー)と台データの保管場所(DBサーバー)は別で、APIでつながっています。利用規約にはスクレイピングを禁じる条項があり、同意しないと台データは見られません。
bot対策としては「Cloudflare Turnstile」が置かれていました。ただ、一度通過すると同じアクセス元からは30分間ノーチェックになります。ちなみに、Aがbotで台データを取っていたこと自体は、A側も争っていません。
何が争われたか
一番のポイントは、台データが不正競争防止法の「限定提供データ」に当たるかどうか、でした。
限定提供データ(不競法2条7項)は、2018年改正で入った比較的新しい保護対象です。「営業秘密ほど隠してはいないけど、相手を限って提供しているデータ」を守るための仕組みで、要件はざっくり次の4つです。
- 業として提供している(業務性)
- 「特定の者」に提供する情報である(限定提供性)
- 電磁的方法で相当量蓄積されている(相当蓄積性)
- 電磁的方法で管理されている(電磁的管理性)
双方の言い分を並べると、こんな感じです。
| 争点 | 原告(プロテラス) | 被告・補助参加人 |
|---|---|---|
| 限定提供データか | 規約に同意しTurnstileを通過した者にだけ提供している | 同意以外にアクセス制限はなく、不特定多数が見られる |
| botの利用は「不正の手段」か | 規約違反を隠して同意・通過したのは欺罔にあたる | 単なる規約違反で、刑罰法規に触れる程度の違法性はない。アクセス頻度も過大でない |
| 規約同意の取消し | 詐欺・錯誤で同意を取り消したので閲覧権限はない | 否認 |
| 無償公開データとの同一性(19条1項9号ロ) | ホールには有償提供しており、他店比較用の開示は本来の公表と違う | 登録も対価も不要で、無償で公衆に利用可能な情報と同じ |
原告は訴訟の途中で、Aの規約同意を詐欺・錯誤を理由に取り消すと主張しています。「同意がなかったことになれば、Aは権限なしでデータを取ったことになる」という組み立てですね。
裁判所の判断:「bot」を絞っても「人」は絞れていない
結論から言うと、裁判所は「台データはそもそも『特定の者』向けの情報じゃない」として、限定提供データには当たらないと判断しました。なので、ほかの争点には踏み込んでいません。
理由は3ステップで整理できます。
- 限定提供性がない:ユーザー登録のように、アクセスする者を特定・限定する措置がない。同意さえすれば誰でも無償で見られ、提供相手の選択に原告の裁量が入る余地がない。つまり不特定の者への提供である。
- 電磁的管理性も前提を欠く:この要件は「特定の者に提供するものとして管理する意思」が外から分かることを求める。そもそも特定の者への提供でない以上、その意思が示されているとはいえない。
- Turnstileでは足りない:bot対策でbotのアクセスを制限し、その意思も外に示されてはいる。しかし法が求めるのは提供先の「者」の限定であり、アクセス手段の限定ではない。
面白いのは、Turnstileによる制限や意思表示があること自体は、判決も認めている点です。そのうえで「それは『誰に』じゃなくて『どうやって』の制限でしょ」と線を引いた。ここがこの判決の肝だと思います。
考えさせられるポイント
1. 「見せたい」と「守りたい」は両立しにくい
ホールのサイトは集客のためのもので、台データは誰にでも見てほしい情報です。一方、この判決に従えば、不競法で守るには会員登録やID認証のように「人」を絞る仕組みが要ります。でも登録の手間があると、お客さんは離れちゃいますよね。データを出す側は、公開と保護のどっちを取るか、最初の設計で悩むことになりそうです。
2. 規約同意とCAPTCHA系ツールの限界
「スクレイピング禁止」の規約に同意させ、bot判定を置く。よく見かける対策ですが、それだけでは限定提供データとしての管理とは認めてもらえませんでした。「bot対策は『手段』の制限で、『相手』の制限じゃない」という考え方は、ほかのサイトにもそのまま当てはまりそうです。
3. スクレイピングが「セーフ」になったわけではない
ここは誤解しやすいところですが、判決が否定したのは「限定提供データかどうか」だけです。botの利用が「不正の手段」か、規約同意の取消しが効くか、無償公開データの例外に当たるか、といった点は判断されていません。規約違反としての契約上の責任や、サーバー負荷による業務妨害など、不競法以外の話も今回は対象外。なので「スクレイピングし放題になった」と読むのは早計です。
4. 発信者情報開示という入口
今回は損害賠償の本訴ではなく、その前段の発信者情報開示の手続です。開示には権利侵害が明らかであることが必要なんですが、その入口で「そもそも保護対象のデータじゃない」と言われてしまった。結果として、運営者が誰かを突き止める道も閉ざされた形です。
まとめ
誰でも同意ボタン一つで見られるデータは、bot対策をしていても「限定提供データ」ではない。これが今回の判決の一番のメッセージかなと思います。データを出す側には「守りたいなら人を絞ろう」、集める側には「不競法以外のリスクは残ってるよ」。どっちの立場にも学びがある判決でした。
おことわり
- 今回紹介したのは、大阪地裁(第一審)の判決です。控訴などで上級審の判断が出れば、結論や考え方が変わる可能性があります。今後の動きもあわせてチェックしてみてください。
- 本記事は、判決文を読んだ筆者の個人的な整理と感想です。法的なアドバイスではありません。実際にデータの公開や収集を考えている方は、弁護士などの専門家に相談してくださいね。
- 記事の内容は2026年9月時点の情報にもとづいています。
出典