データサイエンティストとデータアナリストの現在地──生成AIは、この2つの職種をどう変えたか

「データサイエンティスト」と「データアナリスト」。似た響きの2つの職種は、長らく「どう違うのか分かりにくい」と言われてきました。そしていま、生成AIの普及によって、その違いそのものが動き始めています。

2026年時点で、この2つの仕事はどこにいるのか。やさしく整理してみます。

まず、教科書的な違いから

もともとの区分は、それほど複雑ではありません。

データアナリストは、すでに起きたことを説明する仕事です。売上がなぜ落ちたのか、どの施策が効いたのか。SQLでデータを取り出し、BIツールでダッシュボードにまとめ、関係者が判断できる形にして渡します。

データサイエンティストは、これから起きることを予測し、仕組みにする仕事です。機械学習モデルで需要を予測する、A/Bテストを設計して因果を確かめる、その結果をシステムに組み込んで自動で回るようにする。

つまり違いは「分析力の深さ」というより、扱う時間軸と、成果物の形にあります。アナリストの成果物はレポートや示唆、サイエンティストの成果物はモデルや仕組み──というのが、これまでの基本形でした。

生成AIが持っていったもの、残したもの

その基本形が揺れています。2026年7月のイベントで、日本航空のデータサイエンティスト・森口翼氏はこう語っています。

「かつては、分析加工や特徴量設計が業務の8割を占めると言われていました。今はそこがすぐに終わる世界になっています」

データの前処理、集計、グラフ化、レポートの下書き。かつて時間の大半を占めていた作業が、生成AIによって一気に短縮されました。自然言語をSQLに変換するツールや、質問すれば自分で調べて答える「エージェント型BI」も実用段階に入り、専門職でなくても一次的な分析ができる環境が整いつつあります。

データサイエンティスト協会の調査では、日本のデータサイエンティストのうち生成AIを業務で使っている人の割合は、2026年2月時点で74%。数年前の3割程度から、短期間で当たり前になりました。

作業が消えた分、何が残ったか。問いを立てることと、答えを疑うことです。何を解くべき課題として設定するか。出てきた数字は本当に信じてよいのか。その判断は、まだ人の側にあります。

数字で見る「二極化」

将来性はどうか。米国労働統計局(BLS)の見通しでは、データサイエンティストの雇用は2024〜2034年の10年間で34%増。全職種平均を大きく上回る成長です。一方、分析職に近い「市場調査アナリスト」は同じ期間で7%増。こちらも平均は上回るものの、伸び幅には5倍近い開きがあります(日本の「データアナリスト」と完全に対応する分類ではないため、あくまで傾向として)。

「データの仕事はなくなる」でも「まるごと安泰」でもなく、同じデータ職の中で差が開いている、というのが実際の姿に近そうです。

年収についても触れておくと、ここは数字がかなり割れます。ある求人媒体の集計ではデータアナリストの平均が721万円、データサイエンティストが553万円と出る一方、別の調査ではアナリスト581万円に対しサイエンティスト758万円と、順序が逆転します。母集団も集計方法も違うためで、肩書きで年収が決まるわけではないことの裏返しでもあります。実際に決めているのは、どこまでの役割を担っているか、です。

職種の定義そのものが書き換えられた

象徴的なのが、データサイエンティスト協会が2025年11月に公表した「スキルチェックリスト ver.6」です。

改訂の目玉は、従来の「ビジネス力」という区分を**「価値創造力」に置き換えたこと。課題の再定義、意味づけ、社会実装、ガバナンスまでを含む概念に広げ、データサイエンティストを「分析する人」ではなく「価値をつくるリーダー」として定義し直しました。さらに、生成AI・AIエージェント・データガバナンスなどを扱う「融合スキル」の層が新設され、項目数は650から845項目**へと増えています。

同協会の佐伯諭氏は、企業の事業成功には「モデルの精度だけではなく、価値創造・組織変革が一層必要」と述べています。精度を1%上げる競争から、そもそも何のための分析かを設計する仕事へ。職種の重心が移動していることが、公式の定義にも反映された形です。

よくある誤解を整理する

「AIが分析してくれるから、アナリストは要らなくなる」? ── 一次分析はたしかにコモディティ化しました。ただ、AIが出した数字が妥当かを検証し、意思決定に責任を持つ役割は残ります。むしろ誰でも分析できるようになったからこそ、間違った分析も増える。それを止められる人の価値は上がります。

「サイエンティストのほうが上位互換」? ── アナリストの上にサイエンティストがある、という階段構造ではありません。求められる資質が違い、優れたアナリストは事業への理解と伝える力で価値を出します。実際、両者の中間に「アナリティクスエンジニア」のような新しい職種も生まれており、境界は一本の線ではなくなっています。

「いまから目指すのは遅い」? ── 入口はむしろ広がりました。かつて必須だったコーディングの負担が下がった一方、代わりに重みを増したのがドメイン知識です。自社の業務や業界を理解している人がデータを扱えるようになるルートは、以前より現実的になっています。

まとめ──「分析の職人」から「意思決定の設計者」へ

2026年のデータサイエンティストとデータアナリストの現在地は、移行の途中という言い方が正確かもしれません。

手を動かす部分はAIに渡り、残ったのは、問いを立てる力、AIの出力を疑う力、そして組織を動かして実際に成果に変える力。マイナビの羽田野佑奈氏が語った「AIにできる業務を、今から習得する気にはならない。自分だからできる業務に注力していきたい」という若手の感覚は、この変化を素直に映しています。

自社でデータ人材を採るとき、あるいはこれからデータの仕事を目指すとき。見るべきは「どのツールが使えるか」より、どんな問いを持っているかに移りつつあります。


本記事は、米国労働統計局(BLS)の職業別雇用見通し(2024–2034年)、一般社団法人データサイエンティスト協会「スキルチェックリスト ver.6」および同協会の調査、gihyo.jp掲載のイベントレポート(2026年7月)、IPA「DX SQUARE」の記事、および各求人媒体の公開集計をもとに、一般向けに整理したものです。年収などの数値は調査主体により差があります。