「電話が苦手」をAIが引き受ける時代へ──Geminiの電話代行「Call for Me」と、AI電話エージェントの現在地

レストランの予約、美容院の日時変更、近所のお店に在庫があるかの確認。どれも数分で済む用事なのに、「電話をかける」というだけで腰が重くなる。そんな経験は多くの人にあるのではないでしょうか。

Googleは米国時間2026年9月24日、モバイル版Geminiに、**ユーザーに代わって店舗へ電話をかけ、用件を済ませてくれる新機能「Call for Me」**を発表しました。現時点では米国のPixel 11ユーザー限定、英語のみのプレビュー版です。日本の私たちがすぐに使えるわけではありません。

それでも取り上げたいのは、この機能が「AIが電話をかける」という、何度も試されては足踏みしてきたテーマに対する、Googleなりの現時点での回答になっているからです。本記事では、Call for Meの中身を整理したうえで、Google自身の過去の取り組み、他社の類似サービス、そして日本国内の状況を並べ、この分野がいまどこまで来ているのかを考えます。

Call for Meとは何か

まずは発表内容を整理します。

項目内容
機能名Call for Me
発表日2026年9月24日(米国時間)
対象端末Pixel 11 / 11 Pro / 11 Pro XL / 11 Pro Fold
地域米国のみ(米国のSIM、米国の電話番号あて)
言語英語(端末の言語設定が英語である必要があると報じられています)
条件Geminiの有料サブスクリプション加入者で、「Phone by Google」のパブリックベータに参加していること
提供形態アーリープレビュー(段階的に展開)

使い方はシンプルで、Geminiアプリに頼むだけです。たとえば「明日19時に2名でテラス席を予約して。19時が埋まっていたら19時半で」と伝えると、Geminiが店に電話をかけ、自動音声のメニュー操作や保留待ちも含めて会話をこなし、結果を報告してくれます。

Googleが例に挙げている用途は、次のような「日常のちょっとした電話」です。

  • レストランの予約
  • 美容院などの予約日時の変更
  • 店舗の在庫確認
  • 商品の取り置き依頼

「任せきり」にしないための仕組み

この機能で目を引くのは、AIに話させる範囲を慎重に絞っている点です。Googleは発表で「AIに自分の代わりに話させるのは大きな一歩で、本当の意味での信頼が必要だ」という趣旨を述べています。そのため、次のような仕組みが入っています。

  • 発信前に確認画面が出る:かける番号と、相手に伝える個人情報の内容が要約表示され、ユーザーが確認してから発信する
  • 自分の電話番号から発信する:見知らぬ番号ではなく、ユーザー本人の番号・回線から電話がかかる
  • AIであることを名乗る:Geminiは通話の冒頭で、Googleのアシスタントであること、誰の代理なのかを相手に伝える
  • リアルタイムの文字起こし:通話中はGeminiアプリに会話内容が文字で流れ、ユーザーはいつでも見られる
  • いつでも交代できる:ユーザーが途中で割って入り、自分で話すことができる

さらに一部報道では、緊急通報(911)には使えない、支払いやパスワード、健康情報に関わる用件は断る、1日あたりの発信回数に上限がある、電話を受けたくない事業者はオプトアウトできる、といった制限も伝えられています。

できることを広げるより、「できないこと」と「人間が介入できること」を先に決めている。ここがこの機能の設計上いちばん大事なところだと感じます。

Googleにとっては「3度目の正直」

実はGoogleは、AIに電話をかけさせる取り組みを何年も続けてきました。Call for Meはその延長線上にあります。

2018年:Duplexの衝撃と反発 Google I/O 2018で披露された「Google Duplex」は、AIが美容院に電話して予約を取るデモで世界を驚かせました。「えーと」「うーん」といった相づちまで人間そっくりに話すAIに、会場は沸きました。一方で、「相手は自分がAIと話していると気づいていない。それは相手を欺いているのではないか」という批判も強く、その後Googleは「AIであることを名乗る」方針へ舵を切ります。なお、Webで手続きを代行する「Duplex on the Web」は2022年に終了しています。

2025年:まずは「聞くだけ」から 2025年1月、Googleは検索の実験機能(Search Labs)として「Ask for Me」を公開しました。ネイルサロンやペットのトリミング、自動車整備などの店舗に、AIが代わりに電話して料金や空き状況を聞いてくる機能です。同年7月には米国の全検索ユーザーへ展開され、検索結果の「AIに料金を確認させる」から使えるようになりました。電話の冒頭で「Googleの自動システムがユーザーの代理で電話しています」と名乗るのが決まりで、有料プラン(Google AI Pro / AI Ultra)の加入者は利用回数の上限が高く設定されました。

電話アプリ側の積み重ね Pixelの電話アプリには、保留音が終わって担当者が出たら知らせてくれる「Hold for Me」、自動音声メニューの選択肢を画面に表示する「Direct My Call」など、電話の面倒を減らす機能が以前からありました。

こうして見ると、Call for Meでの進化は明確です。「情報を聞いてくる」だけだったAIが、ユーザーの名前などの個人情報を伝えたうえで「予約する・変更する・取り置く」という実際の手続きまで踏み込んだ。Duplexのデモから8年かけて、ようやく「用件を済ませる」ところまで来た、と言えます。

類似サービスの現状

AIに電話をかけさせる、あるいはAIが電話を受ける。この分野にはすでに多くのプレイヤーがいます。整理すると、大きく「かける側」と「受ける側」に分かれます。

かける側(ユーザーの代理で発信する)

Meta「Muse」 Metaは2026年9月8日にパーソナルAIエージェント「Muse」を公開しました。アプリやWhatsAppから使え、米国の店舗へ電話して予約や在庫確認をする機能も備えています。ところが9月22日、ロイターが「社内テストでは、Museの電話の一部を実はコールセンターの人間の契約スタッフが担当していた」と報じました。報道によれば、テストでは人間のスタッフのほうが成功率が高く(95〜98%)、その差を埋めるために人間を混ぜていたようです。しかも利用者である社員への説明が不十分で、ある通話ではスタッフが差別的な発言をしたことも明らかになりました。Metaは「誤りだった」と認めて謝罪し、この仕組みを一時的に取り下げています。

Call for Meの発表は、この報道のわずか2日後でした。「通話はすべてGeminiが自動でこなす」「AIであることを名乗る」「ユーザーは文字起こしで一部始終を見られる」というGoogleの説明は、結果的にMuseとの違いを際立たせる形になりました。

Pine AI 米国のスタートアップPine AIは、請求額の値下げ交渉、サブスクリプションの解約、苦情の申し立てといった、カスタマーサポートとの面倒なやりとりをAIが代行するサービスです。電話だけでなくメールやWebでの手続きもこなし、有料プランは月30ドルから。2026年5月には2,500万ドルの資金調達を発表しています。通話では「ユーザーの代理のバーチャルアシスタント」と名乗る方針で、英語に加えて日本語にも対応している点は、日本の読者として気に留めておきたいところです。

Apple(iOS 26) AppleはAIに発信させる機能こそ出していませんが、iOS 26で、保留中に代わりに待ってくれる「保留アシスタント(Hold Assist)」や、知らない番号からの着信にAIが用件を聞いてくれる「通話スクリーニング(Call Screening)」を導入しています。これは「受ける側の自分を守る」方向の機能で、電話の面倒をAIが引き受けるという流れ自体は共通しています。

受ける側(店舗・企業の電話にAIが出る)

日本ではむしろこちらが先に広がっています。

  • LINE AI予約:飲食店の予約電話にAIが24時間応答するサービス。OpenAIのRealtime APIを使った自然な会話が特徴で、Yahoo!リザベーションマネージャーと連携して予約台帳に自動登録します。現在はベータ版として2026年4月28日〜10月21日まで無料で提供されています。
  • レストランボード × IVRy:リクルートの予約台帳「レストランボード」が、対話型音声AIのIVRy(アイブリー)と連携し、予約の受付・変更・キャンセルにAIが応答する機能を2024年10月から提供しています。
  • このほか、ebicaの「AIレセプション」など、飲食店・医療・美容向けのAI電話受付サービスが相次いで登場しています。

人手不足の中、「営業中に鳴り続ける予約電話」は店舗にとって切実な悩みです。受ける側のAI化は、日本では「便利」というより「必要」から進んでいる印象です。

日本にはすでに「先行事例」がある:オートリザーブ問題

「AIが店に電話して予約を取る」サービスは、実は日本にすでにあります。株式会社ハローが2018年に始めたレストラン予約アプリ「AutoReserve(オートリザーブ)」です。登録ユーザーは500万人を超え、英語・中国語・韓国語にも対応しています。提携していない店舗についても、AIが営業時間中に電話をかけて予約を代行してくれるため、電話が苦手な人や、耳が不自由な人、日本語が話せない訪日客にとっては助かる仕組みです。

ところがこのサービスは、2020年ごろから飲食店側との摩擦が続いています。ITmediaなどの報道によると、主な不満は次のようなものです。

  • 混雑するピーク時間でも関係なくAIから電話がかかってくる
  • AIの音声では人数や希望時間の確認がしづらい
  • 店舗情報が無断で掲載され、内容が誤っていることがある
  • 掲載削除を求めても応じてもらえない

ここから学べるのは、利用者にとっての便利さだけでは、この種のサービスは長続きしないということです。電話の向こうには、忙しい時間帯に対応しなければならない人がいます。AI電話代行は、かける側と受ける側の両方が「これなら受け入れられる」と思える形でなければ、摩擦を生みます。

Call for Meの設計(発信回数の上限、事業者のオプトアウト、AIであることの明示、本人の番号からの発信)は、まさにこの「受ける側への配慮」を意識したものに見えます。

考察:この機能が意味すること

1. 「予約アプリに載っていない店」に届くのが電話の強み

飲食店の予約は、Webやアプリでかなりの部分が済むようになりました。それでも電話が残っているのは、予約サービスに登録していない小さな店や、電話でしか受け付けていない店が多いからです。日本では特にこの傾向が強く、個人経営の店ほど「予約は電話で」が当たり前です。

AIが電話をかけられるようになると、どの予約サービスにも載っていない店も含めて、あらゆる店が「AIに頼める対象」になります。これは予約サービスを一つずつ繋ぎこむのとは、まったく違う広がり方です。電話という、古くて誰でも持っている仕組みの上に乗れることが、この機能の本当の強みだと思います。

2. OSと電話アプリを握っている強さ

単体アプリとしてのAI電話代行は、これまでもありました。Googleの強みは、スマホのOS、電話アプリ、本人の電話番号をすでに握っていることです。見知らぬ番号ではなく本人の番号から電話がかかり、通話の記録は電話アプリに残り、途中で本人が交代するのも自然にできる。受ける側にとっても「いつものお客さんの番号から電話が来た」ほうが安心です。

これはサードパーティのアプリが真似しにくい部分で、同じ理由でAppleが同様の機能を出してきた場合も強い立場にあります。

3. 「人間並みの成功率」はまだ簡単ではない

Museの件で見えたのは、AIだけで電話をこなす難しさです。人間のスタッフの成功率が95〜98%だったということは、裏返せばAIだけではそこまで届いていなかった可能性があります。電話の相手は、聞き返し、言い間違い、店独自のルール(「コース予約は前日まで」「テラス席は当日案内のみ」など)、背景の雑音と、予測しにくい要素だらけです。

Googleが「現実の会話は微妙なニュアンスに満ちている」として、予約・変更・取り置きといった定型的な用件から「小さく始める」と明言しているのは、この難しさをよく分かっているからでしょう。

4. 日本語版が来るまでのハードル

日本での提供時期は発表されていません。技術的には、Geminiは日本語でも十分に会話できます。それでも日本上陸には、英語圏とは別のハードルがありそうです。

  • 敬語と「察し」の会話:「その時間はちょっと……」のような、はっきり断らない言い回しを正しく読み取れるか
  • オートリザーブ問題の記憶:飲食店側に「AIからの予約電話」への警戒感がすでにある
  • 特殊詐欺への警戒:AI音声を使った詐欺が社会問題になる中、「AIを名乗る電話」がどう受け止められるか
  • 受ける側もAI化している:LINE AI予約のように、店舗側でもAIが電話に出る場面が増えている

最後の点は興味深く、近い将来、「かける側のAI」と「受ける側のAI」が電話で会話する場面が普通に起きるはずです。それなら音声でやりとりする必要はなく、裏側でデータをやりとりすればいいのでは、という議論も出てくるでしょう。電話は「AI同士をつなぐための暫定的な共通規格」になっていくのかもしれません。

企業として今から考えておきたいこと

この話は、個人向けの便利機能にとどまりません。自社の代表電話や問い合わせ窓口を持つ企業にとっては、「AIから電話がかかってくる」ことへの備えという意味があります。

  • AIからの電話をどう扱うか決めておく:予約・問い合わせをAI経由でも受け付けるのか、断るのか。受け付けるなら、どこまでの用件を扱うのか
  • 本人確認の考え方を見直す:「ご本人様ですか?」という確認に、AIの代理人はどう答えるべきか。代理として受けてよい用件と、本人でなければ受けられない用件の線引きが必要になります
  • 自動音声メニュー(IVR)の設計:AIが迷わず目的の窓口にたどり着けるかどうかは、人間にとっての分かりやすさとも直結します
  • 自社で「受ける側AI」を導入する場合:人手不足対策としてのAI電話受付は、すでに現実的な選択肢です。ただし、AIだと伝えるかどうか、録音の扱い、人間に引き継ぐ条件は最初に決めておくべきです

まとめ

Call for Meは、革命というほど派手な機能ではありません。対象は米国のPixel 11ユーザーだけで、英語のみ、しかもプレビュー版。できる用件も予約や変更といった定型的なものに限られています。

それでも、Duplexのデモから8年、「聞くだけ」のAsk for Meを経て、本人の番号から、AIだと名乗り、ユーザーに見守られながら、実際の手続きまで済ませるところに到達したのは、確かな前進です。そして同じ週に報じられたMuseの件は、この分野で何より問われるのが「技術のすごさ」より「透明性と信頼」であることをはっきり示しました。

日本では、かける側のAIはオートリザーブの苦い経験があり、受ける側のAIは人手不足を背景に着実に広がっています。GoogleのようなOSを持つ大手が、受ける側への配慮を組み込んだ形でこの分野に本格参入したことで、日本でも「AIに電話を任せる」ことのルールづくりが、いよいよ現実の課題になりそうです。日本語版が来る日に向けて、個人としても企業としても、どこまでをAIに任せるのかを考え始めるには良いタイミングではないでしょうか。


本記事は、2026年9月24日(米国時間)のGoogleの発表に関する国内外の報道、および各社の公開情報をもとに整理したものです。Call for Meはプレビュー段階の機能であり、対象端末・地域・言語・制限事項などは今後変更される可能性があります。一部の仕様(言語設定の条件、発信回数の上限、オプトアウトなど)は報道ベースの情報を含みます。最新の情報はGoogleの公式発表をご確認ください。

参考リンク