
東京発のAIスタートアップ、Sakana AIは2026年6月22日、複数のAIモデルを動的に組み合わせて動かすマルチエージェント基盤「Sakana Fugu(サカナ・フグ)」と、その高性能版「Fugu Ultra」の一般提供を開始した。4月24日に公開していたβ版を正式版に切り替えたもので、料金やAPI仕様、ベンチマークも更新されている。
「マルチエージェントを、1つのモデルとして提供する」
Sakana Fuguの最大の特徴は、まったく新しい単体のLLMではなく、裏側で複数のフロンティアモデルを動的に束ねる“オーケストレーション基盤”を、利用者から見れば1つのモデルAPIとして提供する点にある。
利用者はOpenAI互換の単一エンドポイントにリクエストを送るだけでよい。あとはFuguがタスクの内容に応じて適切なモデルを選び、必要なら役割の異なるエージェントのチームを内部で組んで連携させ、結果を統合して返す。どのモデルをどう組み合わせたかといった内部の動きは利用者に見えず、外からは普通のAIモデルを1つ使っているように振る舞う。
この仕組みは、Sakana AIがICLR 2026で発表した2本の論文「TRINITY」と「Conductor」が土台になっている。人間があらかじめ役割分担や処理手順を決め打ちするのではなく、タスクごとに最適なチーム編成と連携の型をシステム自身が学習する、という考え方だ。
Fugu と Fugu Ultra、2つのモデル
提供されるのは2モデル。標準の Fugu は性能と応答速度のバランス型で、日常的なコーディングやチャットボットなど反応の速さが要る用途に向く。データやコンプライアンス上の都合に応じて、内部で使うモデルから特定のものを除外できるのも特徴だ。
上位の Fugu Ultra は回答品質を最優先する設計で、より広いエージェント群を連携させる。論文の再現、Kaggleコンペ、サイバーセキュリティ評価、特許・文献調査といった、難易度が高く時間のかかるタスクが想定されている。こちらはプール全体を使う前提のため、個別のモデル除外はできない。
性能と料金
Sakana AIは、コーディング・推論・科学系の複数ベンチマークでFugu Ultraが高スコアを示したとし、一般提供されている主要モデルを上回る項目があるほか、現在は一般非公開のClaude Fable 5やMythos Previewとも肩を並べる水準だと説明している。
料金は、月額のサブスクリプション(Standard 20ドル/Pro 100ドル/Max 200ドル)と、トークン従量課金の2本立て。いずれのプランでもFuguとFugu Ultraの両方が使える。
なぜ注目されるのか
技術的な目新しさ以上に話題を呼んだのが、Sakana AIの打ち出し方だ。同社は「特定ベンダーへの依存リスク」を正面から論じ、輸出規制や政策の変更によってAIモデルへのアクセスが突然絶たれうると指摘。背後で使うモデル群を柔軟に差し替えられるFuguの設計を、こうしたリスクへの“保険”として位置づけている。米国でClaude Fable 5/Mythosの提供が止まった直後というタイミングもあり、国産プレイヤーからの一つの回答として受け止められている。
これからに期待したいポイント
公開されているベンチマークは、Fugu以外が各社の公表値、FuguはSakana AI自身の測定によるものだ。計測環境がそろった第三者検証はこれからという段階だが、裏を返せば、独立した評価が積み上がっていくほどFuguの実力がより立体的に見えてくるということでもある。まずは自社の身近なタスクで小さく試し、品質・速度・コストを手元で確かめながら付き合っていくのがよさそうだ。
料金がドル建てである点については、円安下の日本ユーザーから円建て対応を望む声も出ている。Sakana AIはグローバル展開を前提とした方針だと説明する一方、円建てへの要望は「しっかり受け止める」とコメントしており、今後の対応に期待が持てる。なお、現時点ではEU・EEA域内での提供は見送られているが、これは規制対応を着実に進めている途上ということでもある。
国産発のマルチエージェント基盤が、世界のトップモデルと同じ土俵で語られ始めたこと自体が大きな一歩だ。アップデートや実利用の事例が増えていくこれからが、いよいよ本番と言えるだろう。